200X年、東京―。
片桐蓮は東京タワーの大展望台で一人、過去の記憶を蘇らせていた。目を閉じると今でもそこには遥かなる追憶たちが息をしているようだった。
舞台は1997年―。
関東地方の田舎町「城南市」。この小さな町に育った五人の若者がいた。片桐蓮、宮城大成、藤田秀人、高崎慎哉、大林裕亮。彼らはこの町に古くから続く暴走族『城南一家』の二十六代目のメンバーだった。世間からは「不良」そう呼ばれていた。
しかし、何よりも強い絆で結ばれていた18歳の少年達。「今」が全て、持て余す力、そして抱えきれない心の十字架を振り回すには彼らの生き方は最高の輝きを放っていた。特に蓮と大成はともに少年院出身の経歴を持ち、明日入るかも知れない二度目の少年院さえも「今」という時間の前では単なる結末位にしか思っていなかった。
大成には母や祖父という生まれながらの家族の愛があたりまえにあった。母の温もりや祖父の優しさが何時でも手の届くところにあった大成。一方、父と兄がヤクザの蓮。その蓮には母がいなかった。蓮は幼き頃から親友である大成の生きる環境に憧れを抱いていた……。それに対して、大成は蓮の男色強い生き方に憧れその背中を追い続けていた。
そんな蓮を幼い頃から大成と一緒に我が子の様に可愛がったのは他でもない大成の母、小百合だったのだ。血は違えど、蓮と大成はまるで兄弟のようだった。そしてもう一つ、蓮と大成のそばには二人を支える「愛」があった。それが幼馴染で唯一の女の子、浅水シズクだった。
感情の無い真っ直ぐな瞳の蓮。当たり前の優しさを知る真っ直ぐな瞳の大成。どちらが男の眼なのか、十八歳のこの時はまだ答えなど無かった。それはいつも隣に存在する仲間達が居たから、少なくとも同じ少年の瞳でいられたのだろう……。
しかし、そんなある日に起こったのは、最愛の仲間である秀人の死だった……。もう永遠に十八歳から変る事のない秀人の笑顔の前で、少年達は答え無き運命に傷つき、涙を落とすことしかできなかった。大成は自分の母の前で涙を流した。涙を流せなかったのは蓮だけだった。蓮には泣く場所など生まれた時から存在していなかった……。
そして、本当の仲間一人がいなくなった意味は良くも悪くも、十八歳という少年達の世界を少しずつ狂わせていった……。いや、大人へと変えていったのかもしれない。
―十八歳の終わり。
「少年」も終りを告げる時間だった……。
蓮は暴走族を引退すると、ヤクザになるため自ら裏社会へと進んでいった。世間への反発心などではない。蓮の人生に唯一存在していてくれた絶対的運命、それが「ヤクザ」だっただけのことだ。 実父の息がかかる傘下組織、黒崎組で蓮は部屋住み見習いの若衆となった。
それを知ると大成は、地元、家族、仲間すべてを捨てて東京へ出た。ヤクザになるためだった。ただし同じヤクザの道でも大成は蓮とは別の組織の門を叩いた。 蓮に対する劣等感がそうさせた。大成は辿り着いた地、新宿歌舞伎町でヤクザの世界へと身を落としていく。 狂い始めた少年達の歯車はもう止まることはしなかった。仲間達はそれぞれの道へと別れていった。
それから二年後の1999年―。
それぞれに待っていた運命とは……。それは本当に彼らが求めていた運命だったのか? その先に在った真実とは?
そして、二十歳の歳を迎えた少年達は、故郷城南の街で最初で最後の再会をする……